序章
おにぎり専科・ぬくもり屋
その日俺は遅い昼飯にパン3個とカップラーメン(担々麺)まで食べていた。だから一口サイズとはいえこんな深夜におにぎりを食べていいものかどうか、おそるおそるmy胃袋に聞いてみたってわけだ。
「こんな深夜」が何時かって?そりゃ昨日の午後11時半さ。あと30分もすりゃ日付が変わるという、今食べるべきか食べざるべきかを誰もが悩む、実に恐ろしい時間帯さ。
だがそんな葛藤をおくびにも出さず、俺は暖簾ををくぐり店に入った。すると奥にいたサユリ(仮名)が「あー〇〇(俺の本名)さん、イラッシャァーイイイイィィ!!」と一度聞いたら生涯忘れない独特の節回しで迎えてくれた。サユリ(仮名)は馴染みの女だ。
カウンターに座った俺に、サユリ(仮名)が間髪を入れずオシボリを差し出す。
「〇〇さん(俺の本名)、久しぶりねぇ。最近どう?」
「どうもこうもねぇさ。知事のスキャンダルで計画は全てパーさ」
「あらやだ。〇〇さん(俺の本名)も大変ねぇ」
出てきたジンジャーエールを、俺は一息に飲み干した。
「ゴフゴフッ!!」
「炭酸イッキ飲みなんて、体に悪いわよぅ」
サユリ(仮名)が呆れた目で俺を見つめたので、俺はバツ悪く隣へと視線を移した。
するとどうだ!
隣のお客さんが、何やら美味そうなモノを食べているではないか!
「サユリちゃん(仮名)、あの食べ物は何だい?」
「あれ?あれは黒蜜きなこアイスよ。食べてみるぅ?」
いつ食べるの?
今でしょ!!
林師匠の名言を思い出した俺は、
「黒蜜きなこアイス、ワン、プリーズヘルプミー!!」
と叫んだ。
一瞬店にいた全員が何事かと俺の方を振り返ったが、そんな事はどうでもよい。
俺は食いたいのだ。
おにぎりに、黒蜜アイス。
なかなかやるじゃないか。
言い忘れたが、俺は塩むすびと筋子にぎりを既に食べていた。この両者は鉄板メニューである。北斗の拳で言えば、ラオウとトキのような存在だ。そして、〆のアイス。
「サユリ(仮名)、今日も楽しかったよ、ゲホ」
最後の「ゲホ」は、きなこが喉に絡んだからだ。
「これからこの街はどうなるのかしら。〇〇さん(俺の本名)、知事選挙に出てみない?出るなら投票するわよ」
「ありがとな。だが俺みたいにスネにキズのある奴が出る幕じゃないさ。お前のその清き一票、しかと胸に受け止めたぜ」
風邪ひかないでね〜という送り言葉を背中で受け、俺は外に出た。
春とはいえ、まだまだ夜は肌寒い。ポケットに手を突っ込み、俺は誰も待つことが無い住処へと足早に歩いた。
人通りの少ない繁華街は、何か間が抜けた映画のようだ。
すると、誰かが俺の後ろを走ってくる。
まさか刺客がかかったか!?と緊張して振り向くと、サユリ(仮名)がいた。
「〇〇さん(俺の本名)、ひどいよぅ(はぁはぁ)」
息が切れている。目を見ると、ちょっと怒ったような、可愛い目をしている。せっかくの再会だったのに、俺は素っ気無さすぎたようだ。あぁ。悪い事をした。サユリ(仮名)、ごめんな。俺はいつだってそうやって女を泣かせてきた。本当にすまない。
すると彼女は言った。
「お会計、まだ済んでないわよぅ!」
…to be continued
(このブログのフィクション・ノンフィクション比率は5:5です。理想的な前後バランスかと思われます。解読は自己責任でお願いします。)